以下に転載するものは、1993年の3月、私が江戸川大学マス・コミュニケーション学科久保悌二郎ゼミ「情報産業論」に在籍中、ゼミのレポートとしてまとめたものである。
駄文の固まりではあるが、当時から「ネオ・アミューズメント」的なものにはまりきっていたことが判るだろう。
このレポート中に登場する施設は1993年当時のものであることを予めお断りします。また、このレポートの内容を無断で転載することを禁止いたします。
●初めに
情報は必ずしも文字や映像等のみで伝達されるものではない。匂いや味、音、感触等で感じとる事ができる情報もある。また、身体全身で受けとめるような情報も存在する。梅棹忠夫は『情報の文明学』のP69「情報産業論への補論」で体験情報について次のように述べている。
「人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など、特定の感覚器官を通しての感覚情報のほかに、かならずしも特定の器官によらないものがある。いわば全 身でうけとめる身体感覚のようなものである。たとえばオートバイや自動車をぶっとばすときの爽快感はいったいなんであろうか。さまざまな感覚の複合であろ
うが、一種の全身的身体感覚といわなければなるまい。この種の総合的な感覚情報のことを体験情報とよんでみてはどうであろうか。もし特定の感覚器官を通じ ての感覚情報をもって感覚情報産業が成立するならば、このような総合的全身的感覚、すなわち体験情報についても、感覚情報産業は成立するはずである。」 (*1)
しかしその範囲はあまりにも広く、体で感じる情報すべてが体験情報であるともいえる。そのためここでは体験情報産業の内、アミューズメントに限 定し、その中でアミューズメントに一般的に利用される視覚・聴覚情報以外の感覚によって伝達される情報を付加しているものを実際にそのシステムを体験して
レポートする。他の体験情報産業と区別するためにここではアミューズメント業界がそれらのシステムに共通して使用している「体感」という言葉を用い「体感 情報」として扱う。
●体感情報の種類
体感情報には大きく分けて3種類ある。一つは搭乗者の意志とは関係無く、あらかじめプログラムされた通りに操作させることにより体験情報を与え ることが主目的で、より現実の情報に近いものを再現する事ができる。二つ目はある程度はプログラムに沿っているが、搭乗者の意志を反映することが主目的
で、それ故人間の意志にコンピューターの処理を追いつかせるために少々現実味に欠けていることがある。しかし、搭乗者の意志が反映される事によってそれを 補っている。もう一つは作成された映画等をより臨場感あるものにすることが目的であり、搭乗者の意志は一切反映されない。一般には最初のシステムをシュミ レーター、次のものをゲームといい、最後のものは体感映画ということが多い。
また、そのシステムによって与えられる情報にも現実の情報を再現したものと、架空の情報を再現したものがあり、これによっても区分できる。
●体感情報の実際
次にあげるのは私が体験した中で特にインパクトの強かったSEGAのR360とナムコのGALAXIAN3の体験記である。
[R360]
SEGAが開発。一般ゲームセンター用としては最大の大きさを持つ体感情報装置である。このシステムには安全のために原則として係員の監視のも とで搭乗する。はじめに係員から手荷物とポケットの中身を預けるように言われる。これはあまりにも激しく動くために、小物(とくに小銭)等が搭乗中に落下 することを防ぐためである。
R360の動作は2軸のジャイロの形をした1人乗りコクピットを左右前後に360度回転させるものである。かなり激しく動くためにこのシステム の付近には柵が設けられており、さらにその柵の内側には感圧マット(自動ドアのスイッチと同じもの)が敷かれ、搭乗者以外の人が柵内に立ち入ると自動的に システムが停止するようになっている。
硬貨を投入し搭乗すると、シートベルトを着用する。遊園地のループコースターに使用されているような肩を押さえつける形のものとさらにその横に接続するシートベルトで体をがっちりと固定する。この着用方法はディスプレイに表示されるのでその通りに行えば良い。
シートベルトのロックをシステムが確認すると、緊急停止の方法が案内される。緊急停止の方法は、コクピット内にある緊急停止スイッチ(大型のス イッチなので比較的押し安い)か係員のコントロール用パネル上の緊急停止スイッチを押すことで作動する。つまり搭乗者がなんらかの原因で意識を失った場合
でも監視の係員もしくは見物人がシステムを停止できるのである。またほかにも安全装置として先にあげた感圧スイッチのほか、コクピットから手足を出したと きに反応する赤外線センサーも設置されている。
さて、ゲームを開始すると(内容は戦闘機による空中戦)、空母からの離陸シーンでいきなりシステムが宙返りを行う。初めてプレイした人はたいて いの場合この場面で平行感覚を失い、以降のゲーム操作がうまくできなくなる。これは実際の戦闘機のパイロットが陥るものに比較的似ているものであるとい う。
操作に慣れてくると、たとえば完全に逆さまの状態になったままゲームを継続させることも可能になる。現在開発されているゲーム機で搭乗者が逆さまになったままゲームをプレイすることが可能なのはこのR360のみである。
ゲーム時間は搭乗者のゲームの腕には関係なく2分間で、それが終了すると最後に空母への着艦操作を行いゲームは終了する。この着艦操作も初めての人にはかなり難しく、失敗してしまうことも度々であるが、慣れた人になると3回転して着艦するなどの芸当もできる。
このシステムは去年までは大型ゲームセンターで比較的多くみられたが、最近はあまりみられなくなった。ゲームが飽きられたのもあるが、それ以上にあまりにも激しい動作をするためにシステム自身の耐久性があまり高くないことも原因であろう。
[GALAXIAN3](ワンダーエッグバージョン)
東京の二子玉川園ナムコワンダーエッグに設置されている超巨大ゲームマシンである。動作は128インチビデオプロジェクタ18台、プレイヤー用 座席28席を円形に配置したフロア全体を油圧のモーションユニットによって映像とシンクロして大きく上下に揺らすものである。このGALAXIAN3は大
阪花の博覧会で初登場し博覧会内で最高の人気を誇っていたものである。そのシステムをさらに改良したものがGALAXIAN3ワンダーエッグバージョンで ある。(博覧会に出展されていたものは現在大阪に設置されている。後述)
ワンダーエックにおいても最高の人気であるこのGALAXIAN3は、日曜日ともなると1時間から2時間の行列になるほどである。チケットカー ドを提示して(ワンダーエッグ内はすべてプリペイドカードで料金を支払う)施設内に入ると、初めにブリーフィングと称したゲームの説明を受ける。この際、
説明の係員は銀河連邦宇宙軍の軍人としての口調で案内する。すでにこの時点で参加者はゲームの世界に入っているのである。
説明を終えて2階へ行くと、そこにこのシステムが設置されている。参加者が座席に座り、全員のシートベルト着用を確認するとゲームがスタートす る(内容は宇宙戦争)。ゲームの設定ではこの28人の座席は1機の大型戦闘機ドラクゥーンのガンナー席ということになっている。そのためこの戦闘機の進路
はあらかじめプログラムされたものになっている。通常のゲームの場合、コースがプログラムされた通りにのみ動く場合、敵の出現パターンが全く同じになって しまい、慣れた人はその出現位置をあらかじめ覚えて攻撃を行うことになることが多い。だがこのGALAXIAN3の場合は1つの座席で担当する画面に限界
があり、敵の出現位置は360度全方位からなので、毎回同じ座席に座らない限りパターンを読むことができないようになっている。
ゲーム時間は6分間。最後に「キャノンシード」と呼ばれる敵の内部に進入しドラクゥーンの回りを回転しているスパークビットを全て破壊すれば終 了である。だが、途中でドラクゥーン全体のダメージが一定以上に達したり、制限時間内にスパークビットを破壊できなかった場合にはゲームは失敗で終了す
る。失敗か成功かは参加者個人ではなく、28人全員の成績として表示される。また最後に個人成績がAランクからFランクで表示され、さらに上位3人にはそ の順位が表示される。
このシステムはナムコが特別に開発した「システム21」というものが使用され、立体感ある映像が高速に表示され、ゲーム独特のぎこちなさが全くみられない。(同時に100機近い敵のキャラクターを表示させているにもかかわらず)
また、28人の座席全体とプロジェクタが一緒に駆動するため、ゲーム中にその座席の動きが目に見えず、重力感覚としてのみ感じられるため、浮遊感のような一種不思議な感覚を覚える。
現在はこのシステムはワンダーエッグ内にのみ設置されている。家1件分の大きさがあるので他のところに設置することは困難であろう。
●その他の体感情報システム
現在、体感情報システムは多数存在する。それらを簡単ではあるが以下で説明する。
1.搭乗者の乗った機体全体が駆動して体感情報を与えるもの。
[OUT-RUN]
SEGAが開発した比較的初期のもの。自動車の形をした機体全部を軸としてハンドル操作に併せて左右にスライドし、自動車がカーブするときのGを再現。1回50~100円。
カーレースゲーム。
[Sega Super Circuit]
1989年の横浜博覧会に出展されたもので、現在は北千住のアメージングスクエア内SEGAワールドに設置されている。
会場に設置されたサーキットをCCDカメラを登載したラジコンカーが走る。その映像は前出のOUT-RUNを改造した機体のディスプレイに投影され、プレイヤーはそれを見て操作する。映像が現実の映像なのでよりリアルな迫力がある。1回500円。
[RadMobile]
自動車型の機体の中心線を軸とし、操作に併せて左右に傾けてGを再現。また、ゲームの進行によって搭乗者はライトやワイパーのスイッチを押す操作も必要となっている。
カーレースゲーム。SEGAが開発。1回100円。
[バーチャビーグル]
レバー操作により左右にスライドする2人乗りのカプセルと、それに連動しているCCDカメラで構成。CCDカメラの映像を見ながら障害物を避 け、モンスターを攻撃する。また、必要に応じてライトのスイッチを押すことにより実際の映像も明るくなる。(最近、システムが修正されてライトの操作は無 くなってしまった)
CCDカメラ自身はセットの中を進んでゆくので実写ならではの迫力がある。しかし左右の移動のみなので体感情報は少ない。
開発はナムコ。二子玉川園ワンダーエッグに設置。内容はミクロ戦闘もの。ゲーム。
[G3-BOS]
開発はTAITO。SEGAのR360の直後に発表された。2軸のR360よりさらに左右旋回の1軸が多い、3軸のジャイロ型コクピット(2人乗り)を前後左右に360度回転させる。
内容は多種。体感映画。1回500円
[アストロライナー]
としまえん他の遊園地に設置。ロケットの形をしたシステムの中に座席とスクリーンがあり、そのロケット全体が後部を軸として上下に、ロケットの中心部を軸として左右に回転する。
体感映画。
[CCDカート]
前部にCCDカメラを登載したカートに乗り込み、フロア上のポイントを通過するゲーム。プレイヤーが見ることのできるのはCCDカメラの映像のみであるため、現実世界のゲームでありながら非現実な感覚でプレイできる。後楽園遊園地カーニバル内に設置。
SEGAの開発。ゲーム。1回500円。
[ベンチュラー]
所在地:渋谷Dr.JEEKANS他 (1回無料~500円)
4本の油圧アームによって支えられた14人乗りのカプセルをビデオ映像に合わせて前後上下左右に動かす。代々木のフジタヴァンテにもコンセプターという名前のベンチュラーとほぼ同型のシステムがある。
内容は多種。体感映画。
[WILD PILOT]
JALECOが開発。二人乗りのコクピットが前後に揺れ、登載されている銃で敵を撃ち進む。
内容は空戦ゲーム。
2.搭乗者の乗る座席のみが駆動し、ディスプレイは固定されているもの
[GALAXIAN3](大阪版)
大阪花の博覧会に出展されたもので、現在は大阪AMZA1000内PLABO千日前店に設置されている。円形に配置された座席とビデオプロジェ クタによって、16人が同時にゲームに参加できる。動作はワンダーエッグにあるものと異なり、座席2人分で1ユニットを構成しそれが上下左右に揺れるよう になっている。
内容はワンダーエッグ内にあるものとほぼ同じ宇宙戦闘もの。開発はナムコ。1回500円。
[バーチャルシアター(ヒューマックス)]
新宿歌舞伎町のに存在。1座席ごとに観客の座席が上下前後左右に急激に揺れる。もともと映画館を改装して設置されているためスクリーンは映画館のものを再利用している。1回1200円という値段はちょっと高めの感がある。
内容はおもにチェイスもの。体感映画。
[ALICE]
王子のZYXに存在。座席のシステムはバーチャルシアターとほぼ同じシステム。スクリーンは3面。
内容は宇宙船による飛行体験。体感映画。1回500円。
[瞬間移送装置TP-1]
浅草花やしきに存在。70mmフィルムと連動した2人1セットの座席をバーチャルシアター同様に激しく動かす。
体感映画。1回500円。
[サイバードーム]
レーザー銃の乗った座席が前後にスライドする。
後楽園遊園地カーニバル。開発はSEGA。1回500円。
[TWIN BEAMS]
西荻窪AMUSEUMに設置。
上下前後左右に揺れ動く2人乗りの座席に乗り、100インチディスプレイに映し出されたCG画面に出現する敵を、登載しているビーム砲で攻撃する。
全体的には体感映画であるが、一部がゲーム。1回300円。
[HitII]
現在設置されている場所は不明。メディアファクトリーインターナショナル社が開発。トレーラーの荷台に乗せられているものでイベント等での使用 に適している。基本的な駆動形態はベンチュラーとほぼ同じものである。ベンチュラーと異なる点は出入口が後部に設置されている(ベンチュラーは右側面)こ とぐらいである。
内容もベンチュラーと同じく体感映画である。92年10月に神奈川県サイエンスパークで行われていた「国際バーチャルリアリティinKSP」にて展示。
3.その他
[ハングオン]
オートバイの形をしたマシンをプレイヤーが左右に倒すことにより、ゲーム内のオートバイを操作する。ハンドルがついているがそれは固定されており、機械全体が操作レバーになっている。初期段階の体感システム。現在ではほとんどみかけられなくなった。
SEGAの開発。内容はオートバイレース。ゲーム。
[アムラックスシアター]
映像にあわせて5種類の香りが放出される。また音楽は座席に設置されているスピーカーからも流れ、音による振動を与える。映像そのものは通常の映画とほとんど変わりはない。
内容は映画。池袋トヨタアムラックス。無料。
[バトルテック]
百個近いスイッチ類がコクピットに設置され、それらを操作してロボットを操縦、他のプレイヤーと戦う。それらスイッチ類が(赤外線スイッチ、武 器の設定、ロボットの上半身の独立動作など)すべて何らかの機能を持っており、プレイヤーはロボットのコクピットに乗っているような雰囲気が味わえる。
アメリカVirtual World Entertainmentの開発。日本では横浜トレルワンに4セット(1セット8人)、渋谷Dr.JEEKANSに半セットが設置。
1回1000円。
[ヴァーチャレーシング]
SEGAが開発。左右のハンドル操作やアクセル等の操作により、座席に内蔵されたエアバックが膨らみ、身体に圧力を与えてGを再現する。また、 ハンドルは状況に併せて操作が重くなり、「ハンドルがとられる」状況を再現している。視界もコクピット内、車体後部、低空、高空の4種類を切り替えること が出きる。レーシングゲーム。1回200円。
[ドライビングシュミレーター]
東京海上火災保険が開発した、よりリアルな運転模擬訓練装置。アミューズメントとして展示されるだけでなく、実際の自動車教習の模擬装置として も使用することができる。29インチディスプレイが3面(フロントガラス、右前方を表示)、6インチディスプレイが3面(バックミラー、サイドミラーを表
示)あり、通常の自動車運転手が見る視野のほとんどをディスプレイで表示している。また、バーチャレーシングのようにハンドル操作にかかる反力が状況に併 せて変化するようになっている。
内容は通常の走行シュミレーションの他、特殊な状況での運転シュミレーション(積雪時等)、異常事態時のシュミレーション(歩行者の飛び出し、 前方の車の急停車等)である。また、データー処理用コンピューターを接続することによって運転の結果を出力することも可能である。
「国際バーチャルリアリティinKSP」に展示。
●体感情報システムの駆動種類
・回転型
左右回転、前後回転
R360(前後)やD3BOS(前後、左右)など。全体的にシステムが巨大化し、少人数用でも設置場所が限定される。
・傾斜型
左右傾斜、前後傾斜
大阪GALAXIAN3(左右)やTWINBEAMSなど。駆動部にそれほどの力を必要としないことから、初期の頃のものはほとんどこのタイプであり、現在でもこのタイプが主流である。
・振動型
左右振動、前後振動、上下振動
特に振動のみを主体としているシステムは少ないが、傾斜型システムの動作を細かく急激にしたものや、効果音を直接座席に伝えることによって発生する振動を、他のものと組み合わせて使用されている。
・移動型
上下移動、前後移動、左右移動、自由移動
バーチャビーグル(前後、左右)、CCDカート(自由移動)など。システム自体は小型でも、それが移動するための広さだけの面積が必要になる。
●体感情報システムに必要なもの
前に述べた体感情報システムに搭乗して感じることは、それらに搭乗中は現実の世界が見えなくなることである。初期の頃のシステムでは搭乗中も現実世界がよく見えてしまい、リアルさが無くなってしまう事があったが、最近のものはその点をいろいろと改善している。
例えば、ゲームにおいて体感型のものは通常のTVゲームと比較して大画面のディスプレイを使用している。座席の位置が基本的に固定されているの で、これによって搭乗者の視野は完全にディスプレイ画面で覆われてしまう。特に最近のものでは(バーチャレーシングのように)ディスプレイにハイビジョン
と同様のサイズのものが使用されており、よりゲーム視野が広がることとなった。また、視野を完全に覆う事のできないシステムでは、例えばベンチュラーや G3-BOSのように、外部からの情報をカプセルにより完全に密閉してしまうものもある。これらの方法により、ゲーム中は搭乗者の視野にはゲーム画面およ
びゲーム装置のみが見えることとなり、現実の世界が見えなくなる。この場合、搭乗者に見えるゲーム装置のデザインが現実からの隔離に重要な役割を持つ。
●体感情報システムの安全性
初期の頃の体感システムは左右にスライドする程度のものや、前後左右に数度傾く程度であったため、特にこれといった安全装置は登載されていなかった。(シートベルトはあるが、つけなくても構わない)
しかし、最近のシステムでは機体が激しく振動するため、シートベルトを着用しないとスタートしないものや、座席を深くして揺れてもずり落ちない くふうがされるようになった。特筆すべきものは、SEGAのR360やTAITOのG3-BOSはである。この2機種は人を乗せたまま垂直または左右に1
回転するため、遊園地のループコースター並の安全装置が登載されており、さらに必ず係員の監視の元でプレイするようになっている。係員の監視の必要のない システムでも大抵の場合は感圧センサや光センサが各所に設置され、搭乗者以外の人が接近したり、搭乗者が手足を機体の外に出した際などに自動停止するよう になっている。
また安全装置以外にも、その余りの激しさからプレイ途中で気分を悪くする人もまれにいるため、ベンチュラー等、係員が同乗しない密閉型のシステ ムでは、搭乗者手の届く範囲内に緊急停止装置を設置している。これは万が一安全装置が働かないままゲームがスタートした際に停止する役割も果たす。(実
際、R360をプレイ中、シートベルトのロックが中途半端であったにもかかわらずゲームがスタートしそうになり、停止させたことがある。)
●遊園地の体感情報
そもそも遊園地は体験情報を売りものにしているところである。ジェットコースターやバイキングなどは通常味わうことができない(危険が伴う)ものを安全に体験できるようなシステムである。基本的には落下感やG、めまい、恐怖などを体験させるのが目的である。
最近、ゲームセンターが体感情報を売りものにするようになり、次第に遊園地に近づきつつあるようだ。その典型的なものが二子玉川園のナムコワンダーエッグである。ここは遊園地なのか、それともゲームセンターなのだろうか?
また逆に、富士急ハイランドの[ゾーラ]のように本来遊園地の乗り物であるジェットコースターにゲーム性を取り入れたものもある。私はこれには まだ乗ったことがないが、松本孝幸氏が『遊園地の現在学』で紹介している。(『遊園地の現在学』では[ZOID]と書かれているが、現在富士急ハイランド にあるものは[ゾーラ]という名前である。松本氏の誤りか、あるいは名称変更したものと思われる)
「ドーム型になっていて、四人一組で一台ずつ銃がついたコースターに乗り込む。コースに出てくるエイリアン(?)を銃で撃ちながら進む。当たると 得点が表示される。最後にジェッコースターみたいなコースが少しだけあって終わる。(中略)乗っているだけではなくて、こちら側から攻撃(参加)できる、 というのが新しいところだ。座席ごと移動するテレビゲームだと考えてもいい。」(*2)
ジェットコースターのようにかなりのスピードで動くものではないが、それと似たようなものがワンダーエッグにもある。[ドルアーガの塔]という 同名のTVゲームを大型ゲーム化したものがそれである。4人乗りのライドと呼ばれる乗り物に乗り込み、コースの途中に出現するモンスター達を銃で撃ち進む
ものである。このドルアーガの塔の特徴は、コースの最後に2箇所のチェックポイントがあり、そのチェックポイントの前に出現したモンスターを倒しすことが できなかった場合、そこでライドがコースからはじかれてしまうようになっていることである。話によると全参加者のうち、最後まで到達できるのは1割程度と いうから、かなり難易度が高い。
[ドルアーガの塔]が[ゾーラ]と似ているのは無理もない。なぜなら[ドルアーガの塔]があるナムコ・ワンダーエッグのプロデューサーであるナ ムコの池沢守氏や演出監修である博覧会・遊園地施設企画制作会社アカツキ工芸の望野圭司氏は共に[ゾーラ]の企画・制作に関わっており、その経験をワン ダーエッグ全体のコンセプトに生かしているのである。
「池沢 望野さんとは、富士急ハイランドの『ゾーラ』からのお付き合いですね。’87年ころですか。「シューティング要素のあるライド」という企画を持ってこられて。
望野 実は同じ「遊び」を追求するものとして、ビデオゲームに脅威を感じていたんです。この手法でこっちに進出されると手強いなと。じゃあ、先にくっついちゃえって(笑)」(ナムコ広報誌DIGvol1)(*3)
こうしてみると、ゲームが体感情報化することによって、また体験情報がゲーム化することによって遊園地とゲームセンターの区別がつかなくなってきているようだ。このゲームケンターと遊園地の境界線上に位置するタイプのアミューズメント施設をなんといえば良いのだろうか。
1993年2月16日の週刊TOKYOWALKERに次のような記事があったので転載する。
「昨年の春に登場したナムコワンダーエッグは、それまでのゲームセンターからさらにアミューズメントパークに近いコンセプトで、衝撃的なデビューを果たしている。もうゲームセンターとは呼べない。新しいゲームパークの登場なのだ。」(*4)
ここで言われる「ゲームパーク」こそが遊園地とゲームセンターの境界線上に位置するものなのであろう。
●今後の体感情報システム
アミューズメントに使用される体感情報システムは派手さを追求する余り必要以上に激しい動きを搭乗者に与えるようになっている。なぜなら、本当 にリアルな動作をするシステムでは、搭乗者がそのことに気がつかなくなってしまい、結局なんのための体感情報なのかが判らなくなってしまうのである。その
ため今後も人間が実際の状況で感じる以上の情報をあたえるシステムであることには変わりがないだろう。
また、操作者の意志を反映して動作するタイプのものでは画面の動きに対してシステム自身の動作に若干のタイムラグが発生し、それがリアル感を阻 害する原因になっており、そのタイムラグをいかに短くするかが制作者の一番の悩みである。だがこれは物理に難しいため完全にタイムラグを無くすことは不可
能だろう。と、いっても人間が感じないほどのタイムラグ程度にまでならば今後の技術の発展によって可能になるに違いない。
(*1)
『情報の文明学』梅棹忠夫、中央公論社、1988年
(*2)
『遊園地の現在学』松本孝幸、JICC出版局、1992年
(*3)
『DIG』ナムコ広報、1992年春 創刊号
(*4)
『週刊TOKYO WALKER』角川書店、1993年2月16日号